< 第5回:教育法や教材について >
アメリカのピアノ教育は劇的にこの60年の間で、アメリカの経済状況と共に変化したと言われています。
音楽史を学ばれた事がある方はご存知の通り、昔はピアノを練習するにあたり富裕層は練習曲を作曲家に依頼していたりしました。現在は教本や楽譜は数多くの種類が販売されており、ニーズや教本との相性に合わせて色々な中から選択をできる時代となりました。
アメリカでピアノの先生や、体験レッスンの際に保護者の方が
「What books do you use?」と質問すると
「どの教本を使っていますか?」という意味になります。
お気づきの通り、教本の中にはとても特徴的な物も存在します。
なので先程の「What books do you use?」は
「どの教育法を支持しますか?」という意味として受け取ることもできます。
さて、日本でギルド試験を開催するにあたり、
「ギルド試験の為の教材ってありますか?」
「ギルド試験へ向けて教本は何を使えばいいでしょうか?」
とご質問をいただく事があります。
ギルド試験に向けての特定の教材は存在せず、
世界中で販売されている全ての教本をご使用いただけます。
しかし一つだけACMよりお約束がありまして......
先生が独自に作曲された練習曲などを、
ギルド試験で披露して頂く事は出来かねます。
(販売されている教本や楽譜の中から楽曲を選んで頂く事が前提となっております)
アメリカのサイトなどに行くとギルド試験の教本?
と一見思われる物が販売されています。
本部に確認したところ
「Alfred社がそのような物を販売している事実は知っているが、
ACMはギルド試験関係の出版物は出版していなく、
これからも出版予定はない。」
との回答でしたのでこの場を借りてそのままお伝え致します。
さて、教本と共によく聞かれる事がもう1つあります。
Q.「ギルド試験の教育法はありますか?」
A. ございません
ここからはACM副会長兼カリキュラムコーディネーターとしてACMのアカデミックを引っ張るジュリア・クルーガーからの「教本や教育法について」の説明を日本語にしてご紹介致します。
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日本の方々こんにちは。
ACM副会長のジュリア・クルーガーです。
私は30年以上に渡り今のポジションについていて、
アメリカ国内を始め、中国やインドネシア、そしてその他の国に訪れた際に頻繁にギルド試験の教本について聞かれますが、ギルド試験用の教本は存在しません。
アメリカには色々なバックグラウンドをお持ちの先生や生徒さんがいらしゃっいます。その中にはアメリカでは販売されていない教本を使用して、ご自身の生徒さんにスペイン語やフランス語、中国語でピアノのレッスンをされている方もいます。先生が指導しやすい、そして生徒にとって相応しい教本をACMがお伝えするのはとても難しい事で、こちらの提案が時には先生のレッスンの邪魔をしてしまう場合があります。参加者の事をよく知っているのは指導者で、私達はメンバーの方へギルド試験の場を提供する事で皆様のお力になりたいと考えています。
「ギルド試験に関する教材や教本を出さないか」というオーファーは世界中から頻繁に本部に入ります。しかし、ACMでは教材の販売や関連商品の販売は過去87年間行っておりません。お断りしている理由を簡単に説明する事は難しいですが、現時点ではギルド試験へ向けての関連教材や教本は出版されていない事をこの場でお伝え致します。
アメリカでは多くの新しい教材や新譜が常に出版されています。
私達がレッスンの栄養となると思う出版物の情報は、会員の方へ年に4回、ACM会報誌『ピアノ・ギルド・ノート』内にてご紹介しています。是非ご覧下さい。
尚、ACMが推薦する『指導法』はありません。
しかしギルド試験には、
類を見ないほど素晴らしい内容のレポートカードが存在します。
試験の後、指導者の方が参加者のレポートカードをどのように活用するか。
強いて言うならば、レポートカードがACMがご提供できる指導者の方への教材だと言う事を理解いただければ嬉しいです。
課題曲が無い、演奏曲目が無い、演奏時間が無い。
決して敷居の高い内容ではありません。
3月にお会いできる事を楽しみにしています!
ACM副会長 /
ACMカリキュラム・コーディネーター
ジュリア・クルーがー
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さてここからはジュリアの話の内容にもあった、
レポートカードを教材として活用する方法をご紹介します。
ここで...お恥ずかしいですが...
参加者の実際のレポートカードの一部をお見せいたします。
指導者の方は、試験前にレポートカード内、左側に参加者の演目を『作曲家、題名』の順に記入します。
この参加者は「ソロ演奏部門」のIC級を以下の演目で受験しました。
1: Joplin, the Entertainer
2: Beethoven Minuet in G majpr WoO10, No.2
3: Pescetti, Presto from Sonata in C minor
4: Satie: First Gymnopedie
5: Burgumuller, the knight errant Op.100 No.25
6: Yagisawa, Asuto Iuhiga
『C's(良)』と『A's(劣)』の右となりに数字が入っています。
この数字は上記各課題曲の番号です。
このレポートカードのお嬢さんは『C(良)』が33個『A(劣)』が3個という総合評価となり、以下の3項目に『A's(劣)』がつきました。
1) Marks of Expressions: 4曲目と5曲目
2) Legato-Blending: 1曲目と2曲目
3) Range of Shading: 4曲目と5曲目
以上の点を踏まえて私のレッスンの反省点としては、
4曲目と5曲目(SatieとBurgmuller)の全体的の表現についてもっとレッスン中に踏み込む必要がありました。
そしてテクニックに関しては1曲目のJoplinと、2曲目のBeethovenのLegato-Blendingに『A(劣)』がつき矢印で「More Right Hand Legato
(右手のレガートをもっと出す)」とコメントが引っ張られています。結果から読み取る反省点は、左手の伴奏がジャンプし忙しかった時、メロディーの繋がりが足りず、審査員の気になる点となった事、その他沢山......この2曲に関しては幾つもの相似点がありますので「改めて気を引き締めながらレッスンを行わなくては!」と心を入れ替えるきっかけとなりました。
ACMの教育方法を強いて言うのであれば、
このようにギルド試験のレポートカードを指導者の教材として活用する事が、
ACMの目指すピアノ教育方法でしょう (^^)
本日もお読みくださりありがとうございました。